学校法人 きのくに子どもの村学園 南アルプス子どもの村小学校・中学校

                   

         
     南アルプス子どもの村小学校・中学校       
                       〒400-0203 山梨県南アルプス市徳永1717  Tel 055-287-8205 Fax 055-287-8206   絵文字:メール e-mail   :   minami-alps@kinokuni.ac.jp      

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 スコットランド2019
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学校評価 2023.8.1 作成


南アルプス子どもの村小学校

南アルプス子どもの村中学校

 

 

 

 

現 状 と 課 題

           

             

 

 202381

 

 

 




も  く  じ


1.沿  革

 2.施設の概要

3.学校づくりの理念と実際

 4.学校の現状

 5.今後の課題

6.おわりに

 

 

 

 

  

 

学校法人 きのくに子どもの村学園


1.    沿 革

 学校法人きのくに子どもの村学園南アルプス子どもの村小学校は、20097月に、山梨県知事から設置認可を受け、同年10月に山梨県南アルプス市徳永1717に開校した。施設は、果樹園に囲まれた住宅街に設置され、甲府駅から車で30分の距離にある。

 関東地方一円から子どもが通えるように、開校時には小学校校舎と寮1棟が用意された。子どもの数は、第14学年の17人であった。翌2010年には在籍する子どもの数は70人をこえ、第2寮を増築してベッドの数を確保した。小学校開校から3年後の20124月には、校舎を小学校に併設し中学校が開校した。これに間に合うように第3寮も建築され、10名の中学生を迎え入れた。

 2013年度には、山梨県森林加速化・林業再生事業により山梨県産材をつかって体育館が建築され、山梨県から助成を受け、2014年の4月に完成した。

 2023年度8月現在、小中学校の生徒数は211名。3つの寮には、小中合わせて現在100名が入寮し、月曜日から金曜日まで滞在し、共同生活している。

 

2.    施 設 の 概 要

 

1.校地 グラウンドほか

4458.28

(小中:学校法人所有)

2.校舎(2棟)

898.80

(小:学校法人所有)

 

465.00

(中:学校法人所有)

3.体育館(1棟)

552.80

(小中:学校法人所有)

4.寄宿舎(3棟)

250.00

(小:学校法人所有)

 

217.78

(小:学校法人所有)

 

277.00

(中:学校法人所有)

 

現在の校地、校舎、寄宿舎はすべて小学校と中学校が共用している。校舎、体育館、寄宿舎ともに耐震基準を満たしている。

 

3.    学 校 づ く り の 理 念 と 実際  

 本校の教育理念は、学校法人の経営するきのくに子どもの村小学校(和歌山県橋本市)、そして、きのくに子どもの村中学校(和歌山県橋本市)のそれとまったく同一であり、A..ニイルおよびジョン・デューイの教育理論を基礎にして目標とすべき子ども像と、その目的追求のための基本原則、そして具体的な教育活動の形態を以下のように設定している。

 

(1) 目標とする子ども像

 現代の学校教育は、知識と技能の伝達に主たる目標が置かれ、子どもたちの人格の調和的あるいは全面的な発達がおろそかにされている。そのためにしばしばメディアをにぎわせるような歪んだパーソナリティの人間を育てる危険がひそんでいる。また既成の知識等の伝達に重きが置かれ、子ども自身が創意工夫をはたらかせて発見したり創造したりする力を十分に育てているとはいいがたい。その結果、OECDの国際比較調査に見られるように、創造的に考える力の育成という面で、日本の子どもたちは立ち遅れている。

 以上の批判的見地に立って本学園では、子どもたちが感情、知性、社会性(人間関係)のいずれの面においても自由な子ども(人間)へと育つのを援助したいと考えている。自由な子どもとは、具体的には次のような子どもである。

 

A.感情面の自由

  無意識の解放……内面の不安、緊張、自己否定感にとらわれていない。

  意識面の自由……自己意識が明瞭で、自信や生きる喜びに満ちている。

 

B.知性の自由

  創造的思考………実際的な問題に敏感で、仮説を立て、行動で検証する。

  多方面の興味……多くの事象に好奇心旺盛で、情報収集の意欲を持つ。

 

C.人間関係の自由

  自己の確立………強い自我を持ち自己主張ができる。

  人間関係のすべ……まわりの人々と目的を共有し役割分担ができる。

 

 

(2)       基 本 原 則

 教師による管理にかたより、個人差を軽視し、既成の知識や技能の伝達を主要業務とする従来の方式では上記の自由な子どもの発達は期待できない。われわれは、下記の原則をできるだけ徹底し、かつこれらの原則をバラバラにではなく、むしろ統合的に実行することをめざす。

 

A.自己決定の原則

ニイルのサマーヒルの実践をモデルにしている。子ども自身が学習、共同生活、およびその他の諸活動について話し合い、それをもとに決定するのを大事にする。あるいは大人から提示された複数の選択肢から選ぶ。その学習等の評価に子どもが参加する。

この際、教師はふつうの学校におけるよりもはるかに周到な準備や下調べが要求される。子どもの自由を尊重する教師は楽ができるわけではない。むしろ子どもの自由と教師の忙しさは比例するのだ。

 

B.個性化の原則

画一主義の一斉教授方式を避け、個人差を尊重して学習の多様化を図る。たんなる学習の個別化ではなく、むしろ興味・関心・到達度の違いを認め、同時並行的に質やレベルの違う学習の機会を多くする。また、個性尊重というと、ともすれば「一人学習」と混同されがちであるが、個性尊重と集団活動は対立するものではなくて、むしろ生き生きとした集団の中でこそ個性は輝きを増す。

 

C.体験学習の原則

教科書や問題集を中心にした既成の知識の伝達や機械的な反復学習ではなく、子ども自身が実際的な問題や課題に取り組み、知識や技能を創造するタイプの学習をおこなう。手や体をつかうけれども、何よりも頭をつかう知的探求という性格の学習形態である。デューイの「活動的な仕事」の理論を援用している。

 

(3) 学 習 等 の 形 態 と 学 級 編 成

上記の自己決定、個性尊重、体験学習の3原則は、それぞれが重視されると同時に、互いに関連しあって学習の形態を形成し、カリキュラムと実際の教育活動を組織する。

 

A.プロジェクト

 3原則が調和的に実行される総合学習の形態である。子どもたちは、個人差や個性を大事にされつつ、自発的に実際的な生活にそくしたプロジェクトに取り組んで、統合的に多方面の発達をはかる。出発点となる活動のテーマはデューイのいう「基本的な社会生活」、つまり衣食住またはそれに類する活動で、子どもたちの日常生活から題材をとって、原則として1年間を通じて追究する。小学校では1週間に14時限がこれにあてられる。中学校も同様に、身近な生活と関連して学ぶことを目指しており、体験的な学習を重視している。

 

B.基礎学習、教科学習

 自己決定と個性尊重の原則が前面に出て、抽象的な題材もつかわれる形態である。ただし、できるだけプロジェクトの活動から題材をとり、また得られた知識や技能をプロジェクトで活用する。

 小学校では「ことば」と「かず」の2領域があり、国語と算数に対応するが、その中でもっとも基礎的な内容を扱う。週8時間。第1〜3学年まで国際理解教育を週1時間、第4学年では週1時間、第5、6学年では週2時間を外国語活動にあてている。

 中学校では、国語、社会、数学、理科、外国語(英語)の教科学習を行い、生活に根ざした経験的な学習をすることを重視している。

 

 

C.個別学習

 個性化と体験の原則は十分に維持されつつ、大人の指導や助言がほかの形態よりも多用される時間である。得意な領域をさらに伸ばす場合や、不得手な課題の復習などにあてられる。ただし、現在のところ小学校ではプロジェクトの中に組み込まれている。中学校では主としていわゆる主要5教科の自主学習にあてられている(ただし各教科の担当教員が同席する)。週2時間。

 

D.自由選択、保健体育

 グループ活動である。小学校では主として図画工作、音楽、体育、技術家庭の内容を複数用意して子どもが1学期単位で選択する。合計週7時間。

  中学校では、学年の枠を取り払い、体育、美術、音楽、技術家庭の授業をそれぞれ一つずつ1学期単位で選択する。

 

E.ミーティング

 子どもの自己決定を重視する学校では必然的に話し合いが不可欠になる。時間割上は週1時間であるが、放課後や諸教科の中でも寮生活の中でも話し合いは頻繁に開かれ、個人として、また共同生活の一員として成長するのを促す上でとても重要な役割を果たしている。

 

F.学級編成

 クラスは完全縦割り編成をとっている。つまり小学校の場合、どのクラスにも1学年から6学年までの子どもが属している(中学校は1学年から3学年まで)。子どもたちは、テーマを異にする複数のクラスの活動や担任を見極めてみずから選択する。この学校で最も重要な教育活動であるプロジェクトでどのテーマを追求するかは、学年や年齢よりも優先されるべき要因であるからだ。小学校の基礎学習もこの異年齢グループでおこなわれる。1学年の定員が20名と少なく、各クラスの人数もおよそ25人程度である上に、それぞれに2人以上の大人を配置するティーム・ティーチング方式がこれを可能にしている。

 



 

 



 

1.    学 校 の 現 状

 

(1)学校の組織

 

A.役員会

 本校を設置経営するのは、学校法人きのくに子どもの村学園(和歌山県橋本市彦谷511992年3月、和歌山県知事より認可)である。理事は、堀真一郎理事長を含めて9名、監事2名、評議員は19名である。

 

.教職員

  本務職員……教員:小学校、中学校あわせて17(うち2名がそれぞれの校長)

        職員:事務職員3名 寮職員4

 

  兼務職員……教員:8名(うち1名は中学校の校長、うち5名は小中を兼ねる)

  

  その他 ……学校医、学校歯科医、学校薬剤師 各1

 

C.子ども

 小学校………146名     全生徒数 計211

 中学校……… 65名     (うち通学者は111名。寮に宿泊して週末帰宅する者は100名)

 

D.保護者会

 保護者会は「ゆ甲斐な会」と呼ばれ、主に保護者と学校職員との交流をはかって年間3回程度の懇親会などを開いている。

 

(2)施 設 お よ び 設 備

 本校はオープンプラン方式の校舎である。教室それぞれが連続して配置され、壁は可動式の扉状になっている。各教室は扉を開放して子どもたちが行き来して活動しやすいようになっている。

 すべての建物は木造建築である。基本となる骨組みは、カラマツの集成材(LVL)を使用して建設されており、木材の温かい質感を保ちつつ強固に設計されている。

 小・中学校ともに、体験を重視した学習形態をとっているため、活動に際しては柔軟なグルーピングが行なわれ、教室の外で学ぶ機会も多くある。

  各校舎にはホールがあり、教室とホールを行き来して学べるように工夫されている。また水道や道具が必要なときにすぐに使えるように配備され、図書などはすぐ手に取れる位置に並べてある。

 定員が各学年ともに20名であるため、今のところ大きな不便は感じていない。

 寮は木造2階建てで、収容能力はおよそ100名である。各部屋の定員は2-8名で、個室はない。4名の専任職員が生活面のケアをおこなっている。遠隔地から通う子どもは寮に滞在し、金曜の放課後に帰宅して月曜日の朝11時までに登校する。

 グラウンドは広いとはいえない上に、雑草の勢いが強く、実際の面積すべてを有効に使用しているとはいえない状況にある。薬品による処理以外に効果ある除草法はないと思われるが、子どもたちの健康を考慮するとこれを日常的に使うのはためらわれる。

  現在、学校用地として、近隣の地権者から土地を購入させていただいており、将来的には、学校グランドの拡充、学校の実習農園の確保を進めていこうと計画している。現段階では、徳永1713、徳永1714、徳永1624、徳永1623の土地を取得し終わり、徳永1710-1,1709-1,1711,1709-2の土地を取得するための手続きを進めている。

 後述するように、小学校、中学校ともに校具、教具、図書などの備品は必ずしも豊富とはいえない。しかも体験学習中心の教育を続けるには、消耗品類も多く必要になる。今のところ必要最低限の校具等は何とか用意されているが、今後の整備に工夫が必要である。

 

(3)財政状況

  2022年度の小学校と中学校の収支の概要は以下のとおりである。

<収入>

科目

 

児童生徒納付金

99,081,050

55,241,998

(円)

補助金収入

48,801,840

26,031,880

 

付随事業・収益事業収入(寮費等)

56,002,595

26,404,330

 

その他収入

2,5030181

160,190

 

合計

206,388,666

107,838,398

 

 

 <支出>

科目

 

人件費支出

69,398,627

61,852,412

(円)

教育研究経費

29,543,792

17,687,750

 

管理経費

11,240,039

7,174,902

 

その他の支出

1,779,544

556,693

 

合計

111,962,002

87,271,757

 

収支の差額

94,426,664

20,566,641

 

 

 学校法人きのくに子どもの村学園は、現在、和歌山県(橋本市)、福井県(勝山市)、山梨県(南アルプス市)、福岡県(北九州市)長崎県(東彼杵市)で、小学校5校、中学校5校、高等専修学校1校を経営しており、さらに英国スコットランドに元私立学校を研修宿泊施設として有している。全児童生徒数が700人弱の小規模な学園であるが、さいわい借入金ゼロの経営を続けてきた。なお法人本部の経費は、上記の金額にはまったく含まれていない。

 なお学校法人の方針により専任職員の給与は、年齢、職種、資格を問わず、基本給が全員同額である。


(4)教 育 活 動

 A.プロジェクト

2023年度の小学校と中学校のクラス編成は以下のとおりである。各クラスの名前は、それぞれのプロジェクト活動のテーマから設定されている。

 

 <小学校>

  クラフトセンター……主な活動=木工、小規模な建物の建築、おもちゃづくり

  おいしいものをつくる会…果樹の栽培と収穫、畑・田での栽培と収穫、料理

  わくわくファーム…羊の飼育と世話、繊維をとるための作物づくり、衣生活の研究

  劇団みなみ座………… 劇づくり(舞台劇、ミュージカル、コントなど)

   アート&クラフト………木工、園芸、絵画、手芸品、おもちゃづくり

 

 <中学校>

  くらしの歴史館…食と農にまつわる研究(農業、文化・歴史研究、食や環境問題など)

  ものづくり研究室…自然科学研究(森林、エネルギーに関する研究、学校環境の整備)

  劇団カメレオン(創作劇、脚本づくりなど)

 

 各クラスの2名の担任は、予想されるおおよその活動内容を年度初めに子どもにアナウンスし、子どもたちはこれを聞いて自分の属するクラスを選択する。クラスのメンバーが確定すると年間計画を策定し、子どもたちの感情、知性、社会性の各側面の発達の予想を立て、具体的な学習計画が出来上がる。これは職員全員の会議で検討され修正される。

また年度途中でクラスの様子が報告され、相互に前向きな批判とアドバイスをおこなう。年度末には1年間の経過が報告され、目的やねらいが達成されたかどうかの評価をおこない、次年度の計画に反映させる。

 2022年度については、十分に達成されたとはいえない目標もあったが、おおむね例年通りの成果が得られたと思われる。その成果は、各学期末に舞台発表や展示の形式で、保護者に伝えられ、一般の方には、年に1度、「南アルプス子どもの村の教育講座」を開き、報告する。2023年度は1111日(土)に予定している。

 

B.基礎学習

基礎学習はプロジェクトのクラスそのままのメンバーで同一時間帯におこなわれ、2人以上の大人が担当する。おおむね学年相当の手づくり学習材が用意される。学習材のほとんどが手づくりである理由は、プロジェクトや普段の生活から題材をとるからである。そのぶん教師は忙しいが、与えられた教材を決められた手順どおりに教えるよりも、内容と方法を子どもの実態にかんがみながら工夫できるのは、教師にとって大きな喜びとなっている。また子どもの学習モチベーションを高める上でも好都合であるし、個人差にもきめ細かく対応できる。

なお、本校には通常の通知簿や成績表の類のものはない。その代わりに一人ひとりの子どもの様子は各学期の終わりに「生活と学習の記録」として保護者に報告される。これは教科の成績というよりも、感情、知性、社会性の側面ごとに子どもの成長の様子を自由記述式で記録したものである。

 

C.自由選択

自由選択は、1学期単位で6-8個の活動から選択できる。中身の充実と選択の幅の広がりをさらに充実したものとしていけるように配慮している。

 

ミーティング

  前述のように、子ども集団が自発的にひとつの共同のプロジェクトに取り組もうとするとき、また共同生活をより快適なものにするためには、話し合いは不可欠である。心を通い合わせる仲間として、目標を共有し、役割を分担して大きな仕事に挑戦するためには、大小さまざまな形のミーティングを開かなくてはならない。子どもたちの話し合いのない体験学習は、教師主導のたんなる肉体作業におちいる危険がある。南アルプス子どもの村では毎週水曜日に全校集会が開かれ、行事の計画、もめごとの処理、さまざまな社会問題についての議論などをおこなう。このミーティングを実りゆたかなものにするためのミーティング委員会も設置されている。

 このほか、各クラスでも、寮でもミーティングはひんぱんにおこなわれ、「自分たち自身の生きかたをする自由」(ニイル)の習得のためのよい機会となっている。

 さらにミーティングは別の教育的意義をもっている。さまざまな問題に気づき、これをことばで明瞭に整理して、自分の考えをまとめ、他に伝える力をつけるという意味で、子どもたちの本来の意味での言語能力を伸ばすためのよい経験となっている。漢字ドリルよりはるかに国語の学習になっているのだ。

 ただし、子どもたちの中にミーティングが好きではないという声が聞かれることには注意を払う必要がある。その原因は、迷惑行為や約束違反の行動をした者の扱いなどで時間がかかるケースが少なくないことにある。「楽しい議題のときは長く、いやな議題のときは短く要領よく」というのが望ましい。大人の参加の仕方(発言の仕方とタイミング、議長へのサポートなど)が問われるところである。

 

E.見学、修学旅行、海外体験学習など

 南アルプス子どもの村は、小学校も中学校も、きのくに子どもの村学園の小中高とならんで、日本で最も校外へ出かける機会の多い学校である。プロジェクト学習の充実のためには、クラス単位の日帰りの見学は欠かせない。また各学期に一度は2泊程度で旅行に出かけ、プロジェクトにかんする情報を得る。近年は、スコットランドへ1ヶ月程度の長い期間をかけて出かける機会もできている。2020年からはじまったコロナ禍の影響もあり、しばらくの間は英国への渡航は見合わされてきたが、2023年度の秋より、中学生16名と引率教員がスコットランドへ渡航する予定となっている。

中学校の修学旅行も同様に2020年までは、国内旅行(710泊)と海外旅行(イギリス、3週間)が、夏休み中に実施されてきた。これらは自由参加になっていて、どちらを選んでもよいし、毎年参加してもよく、またまったく参加しなくてもよい。実際には中学生のほとんどが3年間で1回は、どちらか、あるいは両方に参加している。3年連続で参加する者もある。小学生の修学旅行は、6年生だけが全員で参加する(3-4泊)。

コロナ禍においても、中学校の修学旅行は続投されてきた。今年度は2グループに分かれ、沖縄修学旅行(16名、89日)、北海道修学旅行(17名、89日)が行われている。

 

 本校の修学旅行には、以下のように、ほかでは見られない特長がある。

1.子どもたちが計画を立てる。

参加者がひんぱんに集まって、時間をかけて資料を収集し、旅程を立て、こまかく費用の計算をする。さらに宿泊する施設やフェリーの予約をとることも多い。行き先は、毎年、遠くになる。

2.旅行業者に頼らない。

計画の立案だけでなく、移動のほとんども職員がマイクロバスなどを運転しておこなう。したがって中身の充実ぶりからは考えられない少ない経費ですむ。たとえば小学生が4泊で九州を一周しても一人当たり3万円以内である。

 子どもが知恵をしぼって計画を立て、さまざまな情報を身につけ、仲間と夢を共有してその実現に向かって共に力を合わせるという意味において、修学旅行は本校の学習の中心であるプロジェクトのひとつの形態であるともいえよう。

 

F.学校行事

 本校の学校行事はあまり多くない。出かけることが多いので、最近は普通の遠足はほとんどおこなわれない。運動会はあるが、事前の練習にはほとんど時間をかけない。子どもと保護者と地域住民、そして卒業生などの親睦を目的とするイベントになっている。入学式、卒業式などは「入学を祝う会」「卒業を祝う会」と呼ばれ、それぞれに委員会ができて計画を立て、実際の進行も子どもがおこなう。

 そのほか学校行事としては、春まつり、秋まつり、学園の設置する他の学校との交流、隣接の公立校との交流、学校の主催する教育講座への参加、地域社会の伝統行事への参加などがあり、子どもたちの経験を豊かにしようとしている。

 

G.寮生活

 現在、全校の子どもの5割が寮で生活している。いちばん遠くから来ているのは千葉県からである。寮生は金曜日の放課後に自宅に帰り、月曜日に帰校する。遠くから来る子どものために、月曜日は11時に授業が始まる。

 寮の中で子どもたちは思い思いに過ごしているが、ときには共同生活にありがちなトラブル(けんか、ものの貸し借り、持ち物の紛失など)が起きることもあり、必要に応じて全寮ミーティングが開かれる。お楽しみ会、お泊り自由の日、誕生会、クリスマス・パーティなどは子どもたちが自発的に計画して実行する。常駐の寮職員は3名である。

 小学生にとって寮生活は重荷ではないかという懸念が示されることがある。とくにホームシックを心配する人は少なくない。しかしわれわれの経験では、低年齢の子どものほうがかえって早くホームシックを乗り越えていく。最もホームシックそのものは、決して否定的に見られるべきことではない。どの子でもほどほどにホームシックになるのがむしろ自然かもしれない。いずれにしても子どもは、大人が心配するほどはホームシックに悩んだりはしない。じっさい、寮生の大半が寮生活は楽しいと答えている。

 

H.卒業生

 中学の卒業生は2022年度までに150名。内28名が学園の経営するきのくに国際高等専修学校へ進学した。そのほかは公立および私立の高校に進学している。学園全体では、卒業生の内、約2割がきのくに国際高等専修学校に進学し、そのほかは公立および私立の高校に進学しているが、ごく少数が海外へ留学する。その後、大学へ進学する者の割合は普通の学校の卒業生よりかなり高い。

ところで、ときおり「子どもの村の学力が心配だ」とか「高校に入ってほかの生徒についていけるのか」という質問が出ることがあるが、学園としてはとりたてて心配はしていない。とくに進学先の学力にかんしては、むしろ驚くほどのレベルにある子が多いようだ。

 

5. 今 後 の 課 題

(1)教育活動の深まり

 本校は、小学校が15年目を、また中学校は12年目の年度を迎えた。プロジェクトを中心とする教育計画はおおむね軌道に乗っていると考えられる。財政規模は小さく、施設も設備も十分とはいえないが、小規模校のよさを生かした教育活動が展開されている。しかし教育面の改善にはこれでよいというゴールはない。いっそうの研鑽と実験的な試みを続けたい。そのためには、教員の国内、海外、校内など各種の研修、相互の実践の検討、保護者等への啓蒙活動、思いを同じくする姉妹校その他の教育機関との交流などを怠ってはならない。

教職員の研修にかんしては、現在のところほかの学校、とくに公立校に比べれば多額の助成をおこなっているが、今後ともその拡充を図りたい。

 

 

(2)啓蒙活動と横のつながり

 学校法人きのくに子どもの村学園は、これまで日本における「オルタナティブ・スクール」の代表的なモデルとしての地位を占めてきた。その後のユニークないくつかの学校の先駆けともなってきた。マスコミで取り上げられることも多く、見学者もあとを絶たない。国内に限らず、韓国をはじめ、海外からも注目を集めている。

 学園ではこうした内外からの関心に応えて、さまざまな形で自分たちの教育理念や実績・実情について発信してきた。また、教育のあり方を考えるシンポジウムも毎年おこなっている。

  2022年、ドキュメンタリー映画「夢みる小学校」(オオタ・ヴィン監督作品・文部科学省推奨作品、2023年映画批評家大賞受賞)が全国各地で上映されると、大きな反響が学校に押し寄せた。AIが社会に浸透し、人に代わって機械が台頭していく未来を生きる子どもたちの教育のあり方について再考しようと、県外の見学者、地域住民、自治体の各機関、教育関係者らが多く訪れている。従来の教育を問い直し、オルタナティブな教育観とともに、子ども観や学力感を捉え直そうとする来訪者も多く、学校への問い合わせも増えている。定期的に開かれる学校説明会の予定はすぐに満席になり、関心を寄せた人々からの電話やメールでの問い合わせもあとをたたない。不登校の子どもを抱える保護者が、本校のあり方から子どもへの向き合い方のヒントを得ようと連絡をしてくるケースも増えている。学校づくりをすすめるグループや、子どもの居場所づくりを進める団体の視察、大学生や教員、地方自治体の視察も増えている。

日本の学校教育の諸種の問題点がいまだ解決の方向に向かう気配が見られない今日、学園の果たすべき役割は大きい。従来の方式とは違うやり方が存在しうるということ、そして、それがしかるべき成果を挙げていることを、今後とも精力的に発信していきたい。そのためにも、いくつかの新しい学校との連携を深め、具体的な教育実践を通じて教育改革の必要性と可能性をアピールしたい。とりわけ以下の学校との横のつながりは大切に育てたいものである。

 

学園の設置する学校

きのくに子どもの村小学校

きのくに子どもの村中学校

きのくに国際高等専修学校

かつやま子どもの村小学校

かつやま子どもの村中学校

北九州子どもの村小学校

北九州子どもの村中学校

ながさき東そのぎ子どもの村小学校

ながさき東そのぎ子どもの村中学校

キルクハニティ子どもの村スクール(スコットランド)

 

姉妹校

りら創造芸術高等学校(和歌山県気紀美野町)

    箕面子どもの森学園(大阪府)

    まおい学びのさと(北海道)

 

(3)施設と財政

 南アルプス子どもの村小学校と南アルプス子どもの村中学校の物理的環境、つまり施設は決して十分とはいえない。児童数の増加とともに木工や料理など活動をする場所が不足してきている。教育の個性化をめざす教育現場では柔軟なグルーピングが求められる。つかう教室やホールについては、教員同士が工夫して使えるように相談しながら使っている。

備品類にしても買い入れたいものは多い。学校の車両はすべて中古であり、コンピューターも保護者からの寄付によるものが半数以上を占めている。草刈りをする機械も足りていない。

 しかし、あえて各学年の定員が20名の学校として発足した以上、ある程度の不便さはやむをえない。むしろ十分とはいえない施設を有効かつ創造的に活用し、人材をととのえれば相当の教育成果をあげうることもはっきりしてきた。

 財政状態は、前記のように決して余裕があるとはいえない。 南アルプスでは、これまで開校以来、授業料などの児童生徒納付金の改定を一切おこなわないで内部努力でしのいできた。今日の世界的な広がりを見せる経済不況の時代にあっては、授業料などの値上げは考えられないことが理由である。しかし学校通信や、サマースクール、教育講演会などの機会を通じて、本校のよさをアピールし続けたい。

 

 

付 記

 本稿では、通常の学校評価に添付される学外者による評価がない。それはこの学校が一般的な普通の学校とは理念と基本方針そして実践の原則を大きく異にしたユニークな学校であるというところにある。その理念と方針を十分に理解しない人がこれを評価するのは容易ではない。これを強行すれば、無用の誤解や勘違いに陥る懸念が生じる。学園の哲学と実践方式を十分に理解する人が評価をすれば、それは身内による評価とみなされる可能性がある。以上の理由により、少なくとも今年度までは他者による評価をおこなわないこととし、次年度以降の課題としたい。

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