私立「南アルプス子どもの村小学校・中学校」(南アルプス市)で、3月23日にあった小学6年生の「卒業を祝う会」。子どもたちが、お芝居と歌で「100万回生きたねこ」を披露した。
<特集教育>2014
出演したのは、「プロジェクト」と呼ばれる体験学習の授業で演劇を学ぶ小学生25人。脚本も、配役も、替え歌も全部自分たちで考えたから、どの子もうれしそうだ。
お芝居と歌は、授業の成果の発表でもあった。原作と違い、主人公のねこが生きたままで終わるハッピーエンドに、在校生や保護者から大きな拍手が送られた。
この学校にはクラスがない。子どもたちはプロジェクトごとの部屋に集まり、各2人の教員と活動する。プロジェクトは五つ。演劇の「みなみ座」、工作の「クラフトセンター」、料理の「おいしいものを作る会」、歴史の「むかしたんけん」、記事と写真をまとめる「新聞社」がある。子どもたちは希望のプロジェクトに入り、1年から6年までが一緒に学ぶ。国語や算数などの教科内容は、プロジェクトに盛り込まれているため、正規の小学校として認可されている。
プロジェクトでは子どもたちが主体になって話し合い、企画や役割を決める。教員は手助けをして成長を促す、という方針だ。
運営は、学校法人「きのくに子どもの村学園」。1992年、和歌山県に体験学習を中心にした自由学校「きのくに子どもの村小学校」を開校して以来、自主性や個性を重んじるユニークな教育を実践している。2009年に南アルプスに小学校、12年に中学校を開いた。現在、福井県と北九州市にも小中学校がある。
南アルプスでは今年度、小学校121人、中学校44人が学ぶ。ほぼ半数が県外の出身で、従来の学校とは異なる、新しい教育スタイルの魅力に引かれての入学が多い。
この春から中3になる大脇遥香さんもその一人。千葉市出身で地元の小学校に入学する前、きのくに子どもの村小を紹介するテレビ番組を見て興味を持った。両親にも勧められ、和歌山へ。小4のとき、南アルプスでの開校に伴い、学校の寮母となった母親とともに転入してきた。
中2までは歴史や地理のリポートづくりに励んできた。今年は音楽の文化や歴史を研究する予定だ。大脇さんは「リポートをまとめるのは大変で忙しいのですが、それが楽しいと思えるようになりました。この学校で学んで、自分で考えるようになったと思います」。
学校ではテストがないため、児童生徒の学力は数値に表れていないが、ほかの地域の「子どもの村」中の卒業生は、進学した高校で上位の成績を修めているという。
きのくに子どもの村学園の堀真一郎学園長(70)は「主役は子どもたち。教員は対等に接し、学びのためのヒントを与える役目です。プロジェクトや自主研究を通して、子どもたちは知的にも社会的にも成長しているのです」と話す。
◇これまでの学校の枠組みや授業のあり方を超えた、新しい学びのかたちが広がっている。県内での取り組みを紹介する。(この連載は渡部耕平、渡辺嘉三、榊原織和が担当します)